それでも大好き


 「ヤマトが謀反を起こしたそうだ。俺は行くぞ!」
  全ては、敬愛する(ここ、笑う場所ではありません)加藤隊長のこの言葉で始まった。
 隊長が行くし、山本さんが行くと言うなら、これは付いていかなければならない。


  と、いうわけで、噂の宇宙戦艦ヤマトに搭乗してしまったコスモタイガー隊のニュー・
 フェイス一同。いくら隊長を信じているとはいえ、突然に知らない人たちの間に放り込まれ、
 彼らはちょっとドキドキしている。


 「そもそも、もとはどんな話なんだよ」と、山本隊の一人。

 「なんだ、説明されてないのか。大丈夫か、お前ら。宇宙の危機に立ち上がった古代艦長代理に
 賛同したって加藤隊長は言ってたぞ」と、加藤隊。


 「山本さんは、『緊急事態!』としか言わなかったよ。『お供します!』って言ったら
 『勝手にしろ』って」


 「途中で、『言っておくけど、これ軍紀違反だから』だって。けっこう悪いよなあ、あの人」

 「いや、マイペースなだけだと思う」

  山本隊の連中は顔を見合わせて「やられたなー」と笑い合った。

  緊急事態に付いてきた者が、こんなにおっとりしていていいのだろうかと、加藤隊の隊員は呆れた。

 「よく、それで付いてくる気になったなあ。尊敬するよ」

 「で、どんな危機?」

 「……」

  五十歩百歩である。

  そこへ都合よく、ミーティングの招集がかかった。加藤隊長から説明があり、
 故郷では親兄弟が泣いているかもしれないが、君たちは間違ったことはしていない、
 人間として誇りを持て、と、喜んでいいのか泣いていいのか分からない檄を飛ばされた。


  さらに、ヤマト艦内で分からないことがあれば、何でも尋ねるようにと加藤は言った。

 「隊長! バナナはおやつに入るんですか?」

 「ハイ今日のNGワード!」

  加藤がバシンとテーブルのボタンを叩くと、天井から紙吹雪がもうもうと降ってきた。

 「君は、その紙くずを掃除すること!」

 「隊長!! ヤマトには嫌な仕掛けがありますね!」

 「どこにトラップが仕掛けてあるか分からんから、注意して行動するように。なお、恨むなら、
 山積する業務の間に気分転換をしたくなった真田工場長を恨め」


  隊員たちは少し、後悔した。

 「それでは、古代艦長代理について教えてください!」

 「ちなみにスリーサイズは非公開」

 「スリーサイズは結構です! というか、知りたくありません(T_T)。ずいぶん若そうであり
 ますが――」


 「見た目よりは、年行ってるぞ。ボクちゃん扱いをすると、痛い目に合わされるから気を付けろ」

 「艦長代理をボクちゃん扱いできません!(T_T) いえ、経歴やスコアを……」

 「意外にボーリング音痴で、2ヶ月くらい前にプレイした時には最高で56だった。とはいえ、
 君たちが彼のスコアを気にするのはまだ早い。もっと研鑽してからにしろ」


  どこまでがボーリングの話か分からなかったが(というより、この稼業でボーリングの
 スコアを持ち出してくるほうが無理だろう)、隊員たちは、隊長の言葉の後半をよく噛み締める
 ことにした。


 「艦長代理はわりとテレやさんで、挨拶は、まず抱擁だ。そして、肩をポンポンと2回叩く。
 風習の違いだな。島航海班長は顔が濃いだろう、地球ではスキンヘッドでブイブイ言わせていた
 ファンキー野郎だ。艦内では、生真面目ということになっているから、ヅラを被っている。
 ただし、これが時折ずれる。だから諸君は、航海長の生え際に気を配る必要がある。
 挨拶の前によく確認しておくこと」


  だんだん危険な話になってきた。

 「第一艦橋には、いろいろ個性的なチーフがいる。真田工場長は、他人に後ろに立たれるのが
 嫌いだが、ベッドに口が×印のウサたんの縫いぐるみがいたという目撃情報がある。あと、
 南部砲術班長が『メガネメガネ』と言ったら、『かけてますがな』と裏拳ツッコミを入れ
 なくてはならない」


 「規則でありますか!」

 「まあ、そんなもんだ」


  あまりにもベタなので、ちょっと疑念を持った者が、隣に座っていた山本に小声で尋ねてみた。

 「加藤隊長は、ああおっしゃっていますが…」

  山本はしかし、にこりともせずにこの隊員を一瞥し、答えた。

 「いいんだよ」

  この隊員は加藤隊の者だったので、それほど面識のない、しかも不思議に偉そうな態度の
 山本にこう言い切られると、生返事をして引き下がった。


 「紅一点の森生活班長はなかなか美人だが、実は格闘技マニアの猛者だ。ちょっかいを出して、
 寝技で締め上げられて失神・失禁をしたヤツがいる。華奢なのではなくて、鍛えていて
 細いことを覚えておけ。軽はずみはしないほうがいいだろう」


  隊員たちは、楚々とした風情の森雪を思い浮かべて悩ましい顔つきになった。

 「それから、言いにくいことだが、ヤマトにも怪談がある。トイレでいえば、3番目の個室に
 出るらしい。入っていると、いきなり激しくノックをされるんだそうだ。
 ノックを返すと止むが、またすぐに叩き始めて、だんだん激しくなってくる」


  加藤の声が次第に低くなる。

 「下から靴先が見えるんだが、出てみると誰もいない…」

  心なしか、照明が暗くなってきた。

 「そこで灯りがいきなり消えるんだ。何だよ、と思って天井を見ると…」

  突然すべての照明が消えた。

  ミーティング・ルームは男の黄色い悲鳴で阿鼻叫喚の大騒ぎになった。

  再び照明が点いたとき、山本が頬杖をついたままリモコンをいじっていた。

 「まじカンベンしてください!!」

  半泣きの抗議を受けても、山本は薄く笑って、

 「ムードは大切かな、と思って」

  こういうツーカーは迷惑だと皆思ったが、言えない。加藤はさわやかに山本に言った。

 「ご協力ありがとう」

 「どういたしまして」

  加藤隊の出身者は、口には出さないながら、山本は悪人だと確信した。

 「ところで隊長。3番目の個室とは、どこのことですか。艦内にトイレは数ヶ所ありますし、
 右から数えるか、左から数えるかで違います」


 「残念ながら、俺も3番目としか聞いていない。実証してみたらどうだ。あくまでも噂だから。
 他にもいくつか聞いたことがあるけど……どうした、山本」


  リモコンを持ったまま、天井の片隅を凝視している山本。

 「……なんか、いる。そこ」

  再び阿鼻叫喚。


  C・T隊が合流してから1ヶ月ほど経った。隊員3人が食堂でトレイを持ったまま空席を
 探していると、南部が手招きをした。


 「こっち、空いてるぞ」

 「ありがとうございます」

 南部はニコニコしながら、隊員たちに尋ねた。

 「ヤマトには慣れてきたか?」

 「はい、いろいろありましたが、なんとか」

 「しかし君たちは落ち着いているな、奴らに比べて。年も若いのに」

  南部の視線の先には、空間騎兵隊隊員たちがいる。

 「飛行機乗りっていうのは、やっぱりクールなのかな」

 「そうでもないのですが、何が起きても動じないような訓練は受けています」

 「へえ。やるな、加藤」

 「…鶴見さんは胃薬が離せないようですが」

  小声で付け加えながらも、隊員たちは、南部が「メガネメガネ」と言い出すのを密かに
 心待ちにしていた。もう、1ヶ月振られ続けているのだが。




FLY FREEさんのサイトリレー企画に参加させていただいた時の
アホ小説でした。テヘ


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