ようやく訪れた業者は、くどくどと遅れの言い訳をしている。1ヵ月前から同じ言い訳を繰り返しているのだ。もう聞き飽きた。次に何を言うかも予想できる。なんとか一週間ずつ先延ばしにするのが精一杯だ。久しぶりだから夕飯でも一緒に、と山本と約束してあるのに、時間までに片がつきそうにない。
このくそ親父。加藤は心の中で毒づいた。若者をたしなめるような、尊大ぶった物言いが随所に表れる。嫌気がさして折れるのを待っているに違いない。なめられている。スケジュールがどんどん遅れていくじゃないか。しかし、こんなことでてこずっていると思われるのは、彼のプライドが許さない。
山本が来てしまった。そして、何も言わずに加藤のやや後ろに立った。ちょっとやりにくいなあ。話はちっとも進まない。大きな声を出しそうになり、出したら負けだと自分に言い聞かせた。
「それで、いつ出来るんですか。15日ですか」
突然山本が、あたりの空気を断ち切るほど冷ややかな調子で口を出した。加藤は驚き、一瞬思考が止まった。敵も、思わぬところから攻撃されて目を白黒させている。
15日。3日後だ、
「15日に、必ずください」
冷酷な口調で山本が念を押す。話し合いは続きようがなかった。
「…おまえ、取り立てのバイトか何かしてた?」
「なにそれ」
「いや、ありがたかったけど! ちょっと驚いちゃったよ」
「それが狙いだ」
山本は人の悪い笑い方をした。
「妙に恐いときがあるよ。陰で何かされるんじゃないかって感じでさ」
「失礼だな。でも、ここのが終わらないってことは、他の仕事を先に回してるんだよ」
山本はきっと前を見据え、険しい顔になった。相当に機嫌が悪いようだ。加藤はとりなすように、
「ま、とりあえず約束してくれたから、いいとしよう。ジジイのせいで腹減っちゃったよ。何食う?」と、尋ねた。
ちらりと鋭い視線を感じるが、山本の方を見ないでおく。わざとらしくったっていいじゃないか。
「お礼に、1杯ぐらいならおごってやろう」
「15日に出来るかどうか分からないよ」
「そしたら倍返し」
「やだね!」
やっと山本が笑った。
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