どこでもそうだが、人が集まると祭りめいて空気が華やぐ。新人にとっては、地球から訪れた人々や、この浮かされたような雰囲気が、この上なく刺激的だ。だから、昨今のように会議が多くても、彼らにとってはちっとも苦にならず、交替でお茶を出しに行きたがった。ちょっとかわいいが、山本には恨めしくもあった。

 古代が訪れ、どこから聞きつけてきたやら妙に人が集まった。古代といえば、若くしてヤマトの艦長代理となった、もう天上人のような存在だから、どんな人かと思ってきてみたのだろう。

「新しい機を見せてよ」

 そう言うので格納庫に案内したら、やはりやたらと人出が多く、山本もさすがに苦笑いをした。わざとらしく掃除をしたり、何やら相談し合ったり、無邪気なものである。

 古代は特に気にせず、まっすぐに最新機のそばに歩いていった。

「へええ、きれいだねえ。ちょっとお高い現代娘、ってところ?」

 ぐるぐる巡ってためつすがめつしたあとで、コックピットに入った。しばらくあちらこちらをいじくっていたが、やがて降りてきた。

「いいねえ、乗ってみたい。そのうち機会があるかな」

 ちょっと残念そうに言う。

「俺今度外回りなんだよ。飛行機乗りから遠くなってきて、少し淋しいな」

「保険の勧誘にいくんじゃないんだから」

「ところで、ちょっとやせたな」

 突然話題が変わったのに、山本は気付かなかった。

「何が」

「何がって…、飛行機がやせますか? おまえだよ」

「そうかなあ」

「生活乱れてるんだろ!」

 古代は失礼なことを言った。

「そりゃあ、古代さんのように、すぐに手料理を作ってもらえるような生活じゃありませんが! 別に乱れちゃあいない、お生憎様」

「俺、最近開き直ることにしたんだ。もっと言って。でも、料理は俺が作るほうが、本当は旨いんだな!」

 こんなことで胸を張られても、反応に困るところだ。古代はさらにずいと近寄り、真顔で言った。

「冗談抜きに、あんまりアブノーマルなセックスしてちゃ駄目だよ!」

「ふざけんなよてめえだろそれは! 畜生、女ができたら急にさばけやがって、すっげえやな奴!」

「どうしてそう、必要以上に慌てるかなあ」

 古代は澄ましているが、ひそかな笑いの小波がおきた。

「俺ここでは、そういう人格だと思われてないんです!迷惑だ」

「そういう誤解は早く解かなきゃあ。飲み会に山本が来ると、もう、話が落ちて落ちて。えげつない話の王様。知ってた?」

 古代は近いところに居た者に話しかける。

「嘘です!絶対嘘!」

 先手必勝とはよく言ったものだと山本は思った。奇襲のせいで、もう巻返しは望めない。

「全く、子供が大人の世界を垣間見ちゃったものだから、こういうことが言いたくてしょうがないんだ。今のうちだよな、そのうち遊んだ話しなんかしたくったってできなくなるもんな。そしたら覚えてろ。波風たてにいくからな!」

「皆さん、こいつはこういう男です。十分注意しましょう」

 古代に話しかけられた男(西原という)は、大真面目で言った。

「いや、大人の世界を垣間見させてもらいました」

「山本さん大人だもんなあ」

「もういいから黙ってくれないか」

 加藤よりもたちが悪い。


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