りるさまへ その1 加藤がおもむろに、意味ありげに、トランプのカードを並べ始めた。 ハートの5、クラブの5、ダイヤの5。3枚だけを横一列に並べると、すまして残りをポケットにしまった。 「今回のお題はこちらです。何でも思うところを言ってください。では、アドリブの利かない山本」 「一言余計だけど、乗ってやる。スペードの5がない」 山本が答えると、加藤はにやりと笑った。 「絶対言うと思った。君の思考はお見通しです〜。実はポケットと俺はリンクしてるんだよ。残りは口から出ます。ハイッ」 どこで仕込んできたやら、口からカードが出る流行の手品だ。裏返しになったカードをずらりと扇形に広げてみせた。 「じゃ、どれでも好きなカードをさしてみ」 「わかっているけど気分的に触りたくないなあ……。これ」 そのカードをめくると、見事スペードの5! テーブルを囲んで眺めていた一同は、やんやと拍手し、島は、いつの間に用意したものやら小銭をテーブルナプキンに包んだおひねりを、ポンポン加藤に投げつけた。……頭を狙って。(余談だが、時々ごみが包んであるのも混じっている) ちょっと得意げに、左手拳を右掌に当てて挨拶する加藤に、いいように使われてしまった山本が釘をさした。 「加藤、もう一言言わせて。一生懸命仕込んできて言うのはかわいそうだけど、この芸、食べ物屋でやるな」 「はいはいはい! 俺も言わせて!」 南部が立ち上がって、自信たっぷりに言いはなった。 「助手がチャイナドレス着てない!」 「馬鹿もの!!」
(この後、南 部康先生の「これ 消すあるよ」手品にコーナー変更となる) (「これ 消すあるよ」手品とは:グラスに任意のものを入れて、手段を問わず消してもらう手品。リンクしている腹のポケットにしまって消すことが多い。いかに消しにくいものを仕込むかも、観客?の才覚のうち) |